村上春樹の心理分析法が最高すぎる
村上春樹と川上未映子の対談集「みみずくはたそがれに飛び立つ」を読みました。
- 作者: 川上未映子,村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2017/04/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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そのなかに「村上春樹が小説を書く際によくイメージすること」として紹介されていた、人間の心を一軒の家として表現したモデルが大変面白かったです。
最近の心理学では生物学的・脳科学的な分析もけっこう行うようでしたが、一昔前の心理学では学者個人の洞察に基づいたモデルを使用することが多かったようです。村上さんの精神のモデルはそれに近いかもしれません。
地下2階で起こっていること
村上春樹の語る、人の心としての家はこんな感じである。 2階:趣味の物品や本などが置かれる個人的な場所 1階:家族や友人などと共有して使われる場所。楽しくて社交的で、共通の言語で喋っている。
地下1階:近代自我が巣を張っている場所。いわゆる社会的劣等感とか太宰的なドロドロしたものはこの辺にあるということ。貧困環境的な私小説とかで扱われやすい。これより下の階にとらわれると想像力を著しく奪われそうですね...
地下2階:さらに奥深くには、社会が成立する以前から引き継がれる人間の無意識がうごめいているとのこと。それこそ縄文時代以前の人類にも通ずるような無意識。
いやほんとね、なるほどな〜大した人なんやなあ〜と思いました。
心理分析の手法もさることながら、僕が本当にすごいなあと思ったのは村上さんが「あえて地下一階部分は素通りする」というスタイルを自作品で一貫して貫いているという点でした。そこにあるのはおそらく明治以降の私小説に代表されるような、やれ女だ、金だ、貧乏だ、酒だ、殺人だ、自殺だといったドロドロ・クヨクヨさが渦巻いているのだと思いますが、その部分を村上さんは「目を瞑ってスッと通り過ぎる」とのこと。その理由は”他の人がすでにやり尽くしているから”とのこと。こーゆーところがかっこいいですよね。勘が鋭いというか、マーケットの視点がすでに備わっているんですね。今になって思えばその通りですが、当時は”人間が描けていない”というようなバッシングを受けたこともあるようです。”文学はこういうもの”というステレオタイプがある程度成熟している中でのあの文体。なかなか真似できるものではないと思います。すげー。